日本の家づくりの原点:土壁塗り(左官職人)

日本の家づくりには、長い歴史の中で受け継がれてきた伝統技術があります。そのひとつが「左官」と呼ばれる、壁を塗り仕上げる技術です。特に日本の気候風土に適した「土壁」は、昔ながらの家づくりに広く用いられていました。しかし、近年では土壁を採用する家が減少し、それに伴い熟練の職人も減少傾向にあります。そこで今回は、日本の家づくりの原点ともいえる土壁塗りについて詳しくご紹介します。
荒壁塗り
土壁の工程で最初に行われるのが「荒壁塗り(あらかべぬり)」です。竹を格子状に組んだ「小舞(こまい)」という下地に、土を塗り込む作業をします。この工程では、しっかりと土が竹に絡むように塗らなければなりません。力と技術がいる大変難しい仕事です。
左官職人さんに説明いただきながら、「荒壁塗り」を見せていただきました。
手板(土を乗せる板)から土をとる時の塗りゴテの音がいいです。
荒壁塗りを体験
少しだけ荒壁塗りを体験させていただきました。
とにかく初めは、土が壁から落ちないように、上へ持っていくように。
だんだん面白くなってきます。隅っこは難しいです。
ある程度、小舞(こまい)の後ろに土を出すという力がないと壁が落ちてしまいます。竹の隙間から土がはみ出して後ろに垂れ下がると、乾いてから剥がれないようになります。そこが大事で、単に荒壁ではなく、色々と考えられています。

小舞下地

裏側(土がはみ出しています)
グ~っと後ろにはみ出すように。素人は無駄な力が入ってしまします。
裏側を確認すると、職人さんがしたところと自分とではやはり違います。
均一に塗るには職人の技術が求められます。
一度下塗りをしながら、ある程度厚みをつけていきます。だいたい3㎝ぐらいは塗ります。仕上げの時にはでない、手板から材料を取る“シャッ”という独特のコテの音がいい音です。
昔のやり方を紹介
高所作業での材料の渡し方
高い所の作業では、今のように立派な鍬はなかったので、木で作った道具を使って、掘り投げるようにして材料(土)を渡していました。
では、金ゴテが出来る前はどんな物で作業していたのか?
はじめに手で土を団子状にして、それを壁につけた後に木で均していたそうです。
手で団子状にしてくっつける方法を体験!
意外とこうすると、次に塗りやすいかもと思いました。
一度つけると塗りやすく、普通の壁でも下塗りをして次に中塗りするとコテがスムーズに流れるそうです。下塗りはあくまでも壁を汚すという感じとのこと。
では、現在のやり方に戻って職人さんの軽やかなコテの音を聞きながら、作業が進んでいきます。
後で(中塗りの時に)塗りやすいようにコテで均して終了です。
裏側を見てみると、このように竹の小舞に材料がかみ込むので土壁が丈夫になります。
荒壁の裏をコテで押さえておきます。
裏返しの時に必要な作業で、少し平面に均します。
裏返し
荒壁土塗りから2~3週間ほど乾燥させたのち、「裏返し(うらがえし)」作業を行います。
先ほどの作業と同じですが、先ほどより塗りやすいです。
材料
土に藁スサを混ぜて練ったもの
藁スサとは
藁を細かく刻んだもので、収縮やクラックを減らし、材料の水持ちやコテすべりをよくするなど、作業性を向上させる効果もある。
水になじませたものの方が施工がしやすいので、
これは2~3週間前から寝かしているので施工がしやすくなっています。
貫板(ぬきいた)という板のところが分かりにくくなるので、コテで筋を入れ、後で貫藁(ぬきわら)を入れます。
貫板と壁とのつなぎに藁でクラック(ひび割れ)を防止するために施工します。
均一に均して完了です。後はチリ回りの掃除をして終わりです。
チリとは
部材の接合部分にできる段差。ここでは柱と壁の接合部分にできる段差の事です。
中塗り
荒壁→裏返し→中塗りの手順で進んでいきます。
中塗りの材料は土と川砂とスサで、これには糊などは入っていません。
この中塗りは、仕上げに大変重要な役目を果たします。砂と土のバランス並びに、水量の保水の仕方によって壁が割れたりするので、そのバランスの取り方、材料の作り方が大変難しいと思います。そこが一番の重要ポイントです。
壁が亀の甲のように割れているのは、スサと砂の分量のバランスが悪いためで出来るだけそのようなことがないようにします。
この土も兵庫県では淡路産と丹波産があり、ここで使っているのは淡路の土です。
ぐるりから塗っています。チリ回りを重点的にコテで作業します。これをする事で真ん中の高さも自然と出てきます。
チリ回りを先にして、真ん中を塗る。昔からそのようにしています。
最後にムラをなくして中塗り完了です。あとは上塗りしやすいように均一に均します。
一コテ一コテ均一にするところなので、大変技術が必要とされ熟練した人でないと上手く出来ません。
簡単に施工しているように見えますが、腕の加減、コテの圧の掛け方、角度、これが物凄く重要で、それによって壁が平滑になるように施工することが難しく技術がいる作業で、「左官の難しさ」だとご協力いただいた職人さんがおっしゃっていました。
ここまで、荒壁塗り、裏返し、中塗りをご紹介しました。この作業が終わると次は仕上げの工程になります。漆喰仕上げやみがき壁などを次回ご紹介できればと思います。
弊社のモデルハウスでは、土壁ではありませんが、自然素材の左官仕上げの壁をご覧いただけます。ぜひ、実際に自然素材をふんだんに使ったお家の空気感などを体感してみてください。
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