武庫川女子大学 甲子園会館見学
この度ご縁があって、武庫川女子大学 甲子園会館(旧甲子園ホテル)を設計営業スタッフで見学させて頂きました。甲子園会館は、甲子園ホテルを改修し、現在は武庫川女子大学建築学部の学舎として、建築教育に使用されています。
フランクロイドライト設計の帝国ホテルにも助手として携わった、「遠藤新」が設計した貴重な建物で、歴史や趣、そしてその背後にある物語を感じる大変貴重な建物です。
大学が春休みという事もあり、ゆっくり細部までご説明、見学をさせて頂きましたので、特に印象深かった部分をご紹介致します。
【甲子園ホテルの歴史】
甲子園ホテルは1930年に竣工。帝国ホテルの関係者でもあった「林愛作」の理想に基づいて計画され、当時「東の帝国ホテル、西の甲子園ホテル」と並び称された大変美しいホテルでした。
帝国ホテル同様、中央に玄関・フロント・ロビーがあり、左右に食堂・宴会場・客室を階段状に配置した『ライト式建築』となっており、各部屋から美しい景色・建物のデザインが見える形となっているのが特徴的です。
優雅を極めた建物ですが、戦争の激化によりホテルとしての営業はわずか14年で終了。その後、時代の流れに翻弄されましたが、1965年、武庫川学院に譲渡され教育施設として再スタートとなりました。
2007年、近代化産業遺産に認定、2009年には国の登録有形文化財に登録されています。
またロケ地としても有名で、NHK連続テレビ小説「まんぷく」や、映画「日本のいちばん長い日」でも登場しています。
【遠藤新による有機的建築】
建設当時、甲子園ホテル周辺は松林だったそうで、「松林の間から美しい女性(甲子園ホテルを意図)が顔を出している」様子をイメージして遠藤新がデザインしたという言葉が残っているそうです。
その言葉通り、特に南側からの姿は庭園が大変美しく建築と調和し、フランクロイドライトの『有機的建築』の考え方が感じられました。
外壁タイルの色は帝国ホテルに近い印象の黄土色で、緑色の屋根や装飾タイルやボーダータイルの使い方、窓の取り方などからも、ライトの影響が色濃く感じられます。
【打ち出の小槌と水滴】
甲子園ホテルにはユニークなデザインソースがあるそうです。
それが『打ち出の小槌』と『水・水滴』です。
ホテルが繁盛するようにと縁起を担いで小槌が使われたのではとのお話でした。調べてみると芦屋市には『打出小槌古墳』という古墳があったそうで、何かご縁があったのかもしれませんね。
この『打ち出の小槌』と『水・水滴』を意識しながら見学していると、至る所で見る事ができます。ガラススクリーンのデザイン、内外部に使われているオーナメントや壁面彫刻、そして室内装飾に屋根のデザインに至るまで、『ここにも!』と細かな所に気が付くと、遠藤新の遊び心を感じられうれしくなりました。
その中でも特に美しいデザインをいくつかご紹介したいと思います。
まずは、西ホール前廊下に設けられた【泉水】です。打ち出の小槌模様が施された泉水から水が湧き出る様子、そして水の音は心が洗われる気がしました。
そしてこの泉水にはもう1つ見どころがあります。冬至になると前面に設けられた高窓から光が差し込み、泉水を照らし神秘的な姿を見る事できるそうです。
泉水
次が、【1階西ホール】です。今回の見学で私が特に楽しみにしていた空間です。
市松格子の光天井と、四周に施された壁面装飾は圧巻です。この壁面装飾にも天井から滴り落ちる水滴を鉢が受ける様子をイメージできる装飾がなされています。迫力がある中に水滴に小さくかわいい形が融合したとても美しいデザインです。
1階西ホール
水滴を鉢が受ける様子の装飾
最後が屋根の装飾です。
寄棟頂部の棟飾りや隅棟にも『打ち出の小槌』と『水滴』がデザインされていました。
そして軒先の軒瓦も、丸い形はありますがこの半球体になっているのは大変珍しいそうです。やはりここにも『水滴』です。
屋根は普段、遠くからしか見ることが無い為、今回近くまで行かせて頂き、スケール感や作りの細かさは感動的でした。
屋根の装飾
半球体の軒瓦
【改修工事が進んでいます】
現在進められている改修工事の様子を間近で見学できる、またとない機会を頂き、大変有難く、とても勉強になりました。
今回ご案内頂いた建築学部助手の池澤様は、改修工事を担当されており現場の状況や苦労話、今回の工事での発見等々、現場目線でのお話をたくさんお伺いできとても勉強になりました。可能な限り当初の姿を忠実に残しつつ、今後も建築を志す学生たちの学習の場として安全に永く保存していけるよう、地道な努力と時間のかかる作業、そして今の技術、素材をうまくミックスしながら改修を進められているそうです。
改修工事が完了し、またリフレッシュした甲子園ホテルを見学できる日が楽しみです。